前回の記事では、
「上司がムカついてしょうがないぜ」
「明日のプレゼンが不安だ」
とネガティブな感情がおさまらない時は、エクスプレッシブライティング(筆記開示) をすればいいよ、という話をした。
エクスプレッシブライティングとは、
「なんであの上司は自分にばっかり仕事のケチをつけてくるんや!ムカつく!」など、
自分が考えていることをノートやスマホに書き出す行為のこと。
これをやると、
- ネガティブな感情が減り、幸福感まで高まる!
- 頭が良くなる!
- 感情コントロール力が向上する!
- 免疫力が向上する!
などの、驚きの効果が証明されている。
今回の記事は、
- このエクスプレッシブライティングのすごすぎる効果をすべて紹介し
- なぜ「ただ思っていることを書くだけでこんなにも効果があるのか」というメカニズムを深掘りする
の、2本立て。
エクスプレッシブライティングの方法についてはこちらの記事を参考に。
【関連記事】
▶エクスプレッシブライティングの方法、例、を限界までわかりやすく解説してみた︎
では、はりきっていこう。
エクスプレッシブライティング(筆記開示)の驚きの効果の数々
ネガティブな感情が減り、幸福感まで高まる
筆記開示の生みの親であるテキサス大学のジェームズ・ペネベーガー博士は次のように述べている(1)
数々の研究により、エクスプレッシブ・ライティングを行った被験者は幸福感が高まり、ネガティブな感情が減った。さらには、数週間から数ヶ月でうつや不安が改善し、ストレスが穏やかになる傾向も見られた
不安やうつまで改善したというんだからすごい。もはやこれだけでやらない理由はない。
だが、その効果はこれだけにとどまらない…!
頭が良くなる(認知機能の向上)
ペネベーガー博士いわく(1)
その他の研究では、認知機能の改善も確認されている
認知機能の改善、つまり頭が良くなる、と。これが本当なら驚きだ。
具体的には、エクスプレッシブライティングを5週間続けるとワーキングメモリの働きが向上したという同志社大学の研究報告がある(2)
ワーキングメモリとは頭を使う作業をするときに必要な超短期的な記憶のこと。
「暗算の答えをノートに書き込むまでの間、一時的に頭に保持しておく」などする時に必要。
ワーキングメモリの働きが良いと、「頭を使う作業の成績が良い=頭が良い」ということが言える。
また、ミシガン州立大学の実験(3) では、8分のエクスプレッシブ・ライティングを行った後にフランカータスクという脳トレ系のテストを行ったところ、テストの成績が向上した。
つまり、中・長期間続けることで、ワーキングメモリを鍛えられるだけじゃなく、1回やるだけで効く即効性もあるという事である。
そんな都合の良いことがあっていいのか。
まことに嬉しい限りである。
感情コントロール力が向上する
嫌いな相手に対する感情を筆記開示することで、その人物に振り回されることなくスルーできるようになったという研究報告もある(2) 。
エクスプレッシブライティングは感情のコントロール力まで向上させてしまう。
本番に強くなる
また、1日20分のエクスプレッシブライティングを8ヶ月間続けることで、合格率20%の面接の合格率を42%まで高めることができたという報告もある(2)。
感情コントロール力が増して、認知機能も向上した結果、本番でのパフォーマンスが上がったということだろう。
面接の研究ではエクスプレッシブライティングを8ヶ月続けているが、1回やるだけでも本番に強くなる効果は得られる。
シカゴ大学のシアン・バイロック教授の実験(4)では、学生の被験者に筆記試験を受けさせた。このとき事前に「成績が悪ければ連帯責任で全員に罰がある」などプレッシャーをかけておいた。
その後、被験者を2つのグループに分け、一方には10分間「試験に対する不安」を書き出してもらい、もう一方には10分間静かに座ってもらった。その結果、不安を書き出したグループは17%も成績が良かったという。
実にナイスなことである。
性格が変えられる
まだまだ尽きないそのメリット。
寝る前5分のエクスプレッシブライティングを15週間続けることで、メンタルの弱さが性格のレベルで改善したという研究報告(5)まである。
メンタルの弱さが改善したというのは、ビッグファイブ(←科学的に最も実績のある性格診断)のパラーメータの1つである神経症的気質が改善したという意味。
もっと具体的に言うと、「感情が安定している」「嫌な事があっても動じなくなった」ということ。
ただ、この効果は「5分間の瞑想」などの他3つの介入行動も組み合わせて得られたものではある。
とはいえ、メンタルの弱さを性格のレベルから改善してくれるポテンシャルを秘めているという事はいえそう。
免疫力が向上する
前述のペネベーカー博士の実験(6)では、エクスプレッシブライティングで免疫力が向上することまで確認されている。
どんだけ良い事づくめなんだ、と。
この実験では1日20分、被験者をトラウマ体験を書きなぐるグループとただの日記的なことを書きだすグループに分けた。
すると、トラウマ体験を吐き出したグループは、
- 3日後には不安・うつの症状が軽くなり、幸福感も上がった
- さらに1ヶ月後には血圧減少、免疫力が向上した
メンタルヘルスと免疫システムはかなり繋がっているから、メンタルの改善が免疫力の向上につながったのだろう。
とまあ、驚きの効果が数々実証されている。
10~20分思った事を書くだけなのに。
なぜ、それだけの行為に、こんなにも色々な効果があるのだろうか?
なぜこんなにも効果があるのか?
エクスプレッシブライティングが様々な効果を発揮する理由は次の2つに集約される
- 悩み・心配事を書き出すことで脳のメモリが解放される
- 文字に起こした感情を眺めることで自分の気持ちを客観視できる
”脳のメモリ(認知リソース)が解放される”から
このことについては、ミシガン大学の研究チームが2017年の論文でわかりやすい説明をしてくれている(1)。
心配事は認知のリソースを消費してしまう。要するに、ストレスが多い人というのは、つねにマルチタスクで作業をしているようなものだ。
このような人たちは、ひとつの作業をしながらも、もういっぽうでは自分の心配事をモニタリングしつつ、さらにはその感情を抑えようとしている。しかし、エクスプレッシブ・ライティングで悩みをいったん外に吐き出せば、認知のリソースは解放され、もっと脳を効率よく使えるようになる。
エクスプレッシブライティングで、「ネガティブな感情が減ること」と「認知機能が向上すること」の理由はこれで説明できる。
書くことで心配事やストレスを頭の外に吐き出せば、当然、心は楽になる。
そして、そのストレスを抑え込むことに使っていた脳の認知リソースが解放される。
この認知リソースとはワーキングメモリのことである(感情のコントロールにはワーキングメモリが使われることが研究により明らかになっている(7)。つまり、感情コントロールと知的なタスクは脳の同じ部位を使っているということ)。
これにより、目の前のタスクに割けるワーキングメモリの割合が増え、認知機能が向上するということだ。
「誰かに話したり、書いたりすれば感情を吐き出す事ができる」というのは感覚的には納得できる話だ。
だけど、なぜ「書く」と「吐き出す」がイコールで繋がるのか、よくよく考えたら不思議だった。
この疑問は、感情の本来の役割を考えれば答えが出た。
「喜び」や「悲しみ」などの感情は、心という自分の内面からこみ上げてきて、表情や言葉、行動として外部に表現するのが自然な形である。
だが、現代では、「怒り」や「悲しみ」「不安」などをいちいち表に出していては社会生活が回らない場面が多々ある(会社などは特にそうだ) 。
本来、表に出すために存在する感情を表に出さないということは、それは感情を抑え込んでいるということだ。ひいては心を抑圧していることになる。
だから、誰かに話したり、書いたりと感情を表現することで、抑圧されていた心が解放されることになるということだ。
自分の気持ちを人に話したり紙に書いたり歌ったりすると楽になるのはなぜだろう?と思ってた
— ノンストレス渡辺 (@season_of_nabe) 2019年4月8日
それは感情が本来「表に出すために存在している」からなんだろうな
でも今の社会は感情を抑えないと生活が回らない(上司へのイライラとか、恋愛感情とか)
書いたり歌たりしたらその抑圧から心が解放される
”自分の気持ちを客観視できる(メタ認知が働く)”から
メタ認知という小難しい単語が出てきたが、
ざっくり言うと自分の感情を客観視できるようになるという意味だ。
メタ認知というのは自分の思考や感情に関する思考のこと。
つまり、「自分は今上司にイラついているな」とか「いま好きな人のことを考えてたな」とか、自分の頭の中のことを認知すること。
筆記開示でメタ認知がしやすくなる理由
筆記開示で自分の頭の中のことを書き出せば、思考や感情を目にみえる文字として眺められるようになる。
そうすると、頭の中だけで自分の感情を捉えようとするより、自分の気持ちを客観視できるようになる(=メタ認知が働きやすくなる)。
目に見えないものより、目に見えるものの方が、冷静かつ正確に実体をつかめるのは当然といえば当然だ。
メタ認知すると心が楽になる理由
自分の感情を客観視できれば、ネガティブな感情と距離を置くことができる。
そうすると、感情に巻き込まれて、「どうせ自分は何をやってもダメなんだ」みたいに思考がどんどんマイナスに振り切れていくことを防げる。
脳科学的な話をすると、自分のストレスをちゃんと認知できるようになることで、脳の前頭前野という部位が活性化する。
これによりストレス反応を引き起こす扁桃体という脳部位の暴走を抑えることができ、感情の暴走もクールダウンできるというわけだ(8)。
また、紙に書くと思考の流れも可視化されるため、うつ病などの精神疾患の大きな原因ともされている認知の歪みにも気付きやすくなる。
そして当然、自分がどう感じているかを客観的に眺められれば、「じゃあそれに対して、これからどうすればいいのか?」も冷静に考えられるようになる。問題の根本的解決につながる。つなげられる。
ネガティブな感情を頭の中に詰め込んだままこれらのことをこなすのははなかなかに難しい。
エクスプレッシブライティングで、感情を外に吐き出すからこそ、これらのことが可能になるわけだ。
筆記開示なしでもメタ認知が働くようになる
筆記開示を続けているとメタ認知がうまくなって、そのうち頭の中だけでもそれができるようになってくるのが実感できる。
最初は紙に書かないと解けなかった計算問題も、続けていくうちに暗算できるようになるのと同じだ。
「メンタルの弱さが性格のレベルで改善する」のはこの辺の作用が関係していると考えられる。
まとめ
エクスプレッシブライティング(筆記開示)で得られる効果
- ネガティブな感情が減り、幸福感が高まる
- 認知機能が向上する(頭が良くなる)
- 感情コントロール力が向上する
- 本番に強くなる
- 性格が変えられる
- 免疫力が向上する
ここまで様々な効果が得られる理由
- 脳のメモリが解放されるから
- 自分の感情をメタ認知できるようになるから
「1日20分そこらでこんなに効果あるのか」と思うと改めてすごい。
効果を理解できたらあとは実践するのみ。
やり方は下記の記事で詳細に解説しているので、早速今日から始めるしかねえ。
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参考文献
(1)
(2)
(3)
(4)
(5)
You have to follow through: Attaining behavioral change goals predicts volitional personality change
(6)
Putting stress into words: Health, linguistic, and therapeutic implications
(7)
Does Working Memory Mediate the Link Between Dispositional Optimism and Depressive Symptoms?
(8)