日常生活のストレスは、確実にぼくらの心と体を蝕み、寿命まで削っています。
関連記事: 日常のストレスはこうしてあなたの命を削る。ストレス時に体の中で起きていること
そんなストレスから身を守るためにはどうすればいいのか?
参考にするのは、宇宙飛行士が行っている最先端のストレス対処術です。
常に死ととなり合わせの宇宙という環境は、まさに究極のストレス職場。
そこから見えてきたのは、誰にでもできて、かつ、抜群の効果を発揮するストレス解消のテクニックでした。
この記事の参考文献
- 私たちはストレスを自覚できていないという問題
- ストレス解消テクニックの流れ
- 1. ストレス解消法をリストアップしておく
- 2. ストレスがかかったら、そのストレスに見合った気晴らしをリストからピックアップして実行する
- 3. ストレスが減ったかどうかを評価する
- 4. ストレスが残っていたら、気晴らしを続ける
- 脳がストレスに強くなるという効果もある
- 目標は100個。気晴らしリストアップのコツ
- やってみて感じたメリットやポイント
- まとめ
私たちはストレスを自覚できていないという問題
宇宙飛行士にとって、ミッション中の体調管理は最重要事項です。
そんな体調管理のプロフェッショナルである彼らですら、自分のストレスを自覚するのは難しいといいます。
宇宙飛行士の古川聡さんは、職務を通じてそのことを痛感したそうです。
それは、宇宙滞在期間のちょうど中頃、体も慣れて仕事も順調にこなしていたときだったと、古川氏は言う。
「私たちは、定期的に注意力や反応力、正確性をチェックするコンピュータのテストを受けます。飛行前から宇宙へ行ってすぐの頃までは、ほぼ同じ状態が続いていたのですが、そのときだけ正確性が落ちたり、反応がちょっと遅くなったりしたのです。自分では問題ないと思っていたので驚きました。自分の状態を認知するということが、とても大事だと認識しました」
*参考文献より
大切なのはストレスを自覚し、意識的に対処していくこと
わたしたちの生活は小さなストレスで溢れています。
「急いでいるのに電車が遅れている」
「走っている通行人に肩をぶつけられた」
その出来事自体はささいで、すぐに忘れてしまうものばかりです。
しかし、その出来事を忘れたからといって、そこで感じたストレスが消えているわけではありません。
ストレスは蓄積しています。
もっと言うと、「上司に怒鳴られた」などの大きなストレスすら、まだ我慢できるからと放置する人もいます。
*このことについては、Twitterで話題になったこのマンガがすごくわかりやすいです▼
一見大丈夫に見えても大丈夫じゃなくなっていくよねと言う。 pic.twitter.com/nnHVNgl2Z8
— 鳳りょう (@ryou_shibasuki) 2017年6月13日
つまり、何か嫌なことがあったときに、「イライラする」「憂鬱だ」「つらい」という単なる感想で終わってはいけません。
大事なのは、その嫌な気持ちに対して「自分は今ストレスを感じている」とはっきりと自覚すること。
そして、ストレスを感じていると気付いたらそれを放置せず、その都度そのストレスを発散させること。
それを実現するための方法が今回紹介するテクニックです。
ストレス解消テクニックの流れ
このテクニックは、宇宙航空医師でストレスの専門家である緒方克彦氏が紹介するストレス対処法です。
もちろん、宇宙飛行士の方たちも実践しています。
まずはテクニックの全体の流れをみてみます。
- 自分なりのストレス解消法をできるだけ多くリストアップしておく
- ストレスがかかったら、そのストレスに見合った気晴らしをリストからピックアップして実行する
- その結果、ストレスが減ったかどうかを評価する
- まだストレスが残っていると感じたら、気晴らしを続けたり、他の気晴らしに切り替えたりする
このようにして、ストレスの「観察」と「対処」を意識的・徹底的に繰り返すことで、自分なりのストレス対処法を最適化していきます。
では、各ステップについて詳しくみていきましょう。
1. ストレス解消法をリストアップしておく
まずは、ストレスがかかったときにどんな気晴らしをすれば気分がよくなるのかを、あらかじめリストアップしておきます。
例えば、「音楽を聴く」「本を読む」「コーヒーを飲む」「買い物をする」といったことだ。
「えっ、この程度でいいの?」
と思われるかもしれない。しかし、こんなささいなことで構わないのだ。
大切なのは、リストひとつひとつの中身よりも、なるべく数多くリストアップすることである
*参考文献より
2. ストレスがかかったら、そのストレスに見合った気晴らしをリストからピックアップして実行する
そして、実際にストレスがかかったら、リストからストレス解消法を選んで実行します。
上司に叱られるなどの強いストレスがあった時は、とっておきの気晴らしを。
舌打ちをする程度の小さなストレスでも、(ちょっとしたことでいいので)ちゃんと気晴らしを行う、というのが重要です。
重要なのは、ストレスの内容やレベルを冷静に判断し、それに見合った気晴らしを行うことなのである。
*参考文献より
日常はささいなストレスで溢れています。
大きなストレスも問題ですが、この小さな小さなストレスが気付かないうちに山のように積もってしまうことも非常に危険です。
だから、この小さなストレスを放置しないために、いつでも・どこでも出来るちっぽけな気晴らしをリストアップしておくことも重要になってくるわけです。
ストレスの種類も意識しよう
ストレスの大きさだけでなく、ストレスの種類を意識することも重要です。
例えば、ストレスと一言でいっても、「落ち込んでいるとき」と「馬車馬のように働いてストレスが溜まっているとき」では有効なストレス発散法も違ってくるでしょう。
前者では「遊び」「楽しいこと」で気分を盛り上げた方がいいでしょうし、後者では「マッサージ」「読書」など、リラックスできるようなことをした方が効果的だと思われます。
繰り返しになりますが、自分のストレスの状態を正しく認識すること。
そして、それに合った効果的な気晴らし法を選択すること。
この2点が重要になってきます。
3. ストレスが減ったかどうかを評価する
気晴らしを行った結果、実際にストレスが減ったかどうかを自分で判断します。
オススメの方法は、試してみたストレス発散法を10点満点で採点して、それをリストに記録すること。
どんな行動がどのような成果につながるのか、点数をつけることによって客観的に見えるようにするためです。
その行動がもし良かったら、それを繰り返して、習慣化していくと有効です。
4. ストレスが残っていたら、気晴らしを続ける
まだストレスを感じていたら、気晴らしを続けたり、リストに書いている別の気晴らしに切り替えてみたりします。
複数の気晴らしを組み合わせてみてもいいです。
ストレスが消えるのを感じるまで続けます。
以上の4ステップを通じて、自らのストレスの「観察」と「対処」を、意識的かつ徹底的に繰り返すことが重要です。
身体に入ってくるストレスを意識し、その排出を意識的に行うことで、身体の中が常にクリーンな状態に保たれます。
逆に、自覚のないままストレスがどんどん溜まってしまうと、心の状態も悪化し、気晴らしする気にもなれないという悪循環に陥ってしまいます。
汚れが目立ってきてから掃除をするのではなく、いつもクリーンな状態を保つようにする、ということですね。
以上がこのテクニックの肝ですが、この方法を実践するとコレ以外にも思わぬ副産物があることがわかっています。
脳がストレスに強くなるという効果もある
それを物語っているのが広島大学の研究結果です。
研究では、まず、うつ病予備軍の人たちが、上で紹介したテクニックを5週間実践することで、精神状態が健康なレベルに回復することを明らかにしました。
さらに、研究チームはこの研究を行う前後の被験者の脳の状態を調べてみました。
すると、脳の前頭葉の一部(背内側前頭前野:認知を司り、思考や行動の決定に極めて重要な役割を果たす部分)が活性化していることがわかりました(参考文献より)。
これはどういうことか?
アメリカ・ミシガン大学のキング准教授によると、前頭葉の働きが活発になると、脳の扁桃体という部位の働きを抑えることができるといいます。
*扁桃体は、ストレス反応をスタートさせる役割を持っています。扁桃体が活動することによって、私たちはストレスを感じ、体内ではストレスホルモンが分泌されます。
関連記事:日常のストレスはこうしてあなたの命を削る。ストレス時に体の中で起きている事をわかりやすく解説
キング准教授は次のように語ります。
扁桃体と前頭葉は、いわば車のアクセルとブレーキみたいなものです。扁桃体はアクセルです。アクセルを踏み過ぎてストレス反応が暴走を始めると、『そんなに大きく反応しなくてもいいよ』と前頭葉がブレーキをかけるのです
*参考文献より
つまり、ストレスをしっかりと自覚するようになることで、前頭葉が活性化する。
それによって、ストレスを生み出す扁桃体にブレーキをかけられるようになる。
つまり、ストレスに強い脳をつくることが出来るということです。
▲前頭葉が扁桃体の暴走にブレーキをかける(画像は参考文献より)
このテクニックが、ストレスの解消に効果的なだけでなく、脳の機能まで変えてしまうというのは驚きです。
ここまでが、このテクニックの長所ですが、
実際にやってみて感じたメリットもこの後に紹介したいと思います。
目標は100個。気晴らしリストアップのコツ
誰でも、簡単に、科学的に有効なストレス解消ができることがわかりました。
というわけでこれを実践するためのコツを紹介します。
まずは気晴らしのリストアップです。
臨床心理士の伊藤絵美さんは、こう語っています。
「私たちは、ストレスに対処するための気晴らしを100個挙げてくださいと指導しています」
*参考文献より
え、100個?
多くない?
と思った人もいるでしょう。
確かに、いきなり100個というのはなかなか思い浮かびません。
ぼくも最初はせいぜい20個程度でした。いかに普段の気晴らしのレパートリーが少ないかということですね。
まずは質より量(しょぼい方法でOK)
例えば、「南の島にバカンスに行く」という気晴らしはとても効果があるでしょう。
でも、こういう気晴らしは、金銭的にも時間的にもそう簡単にできることじゃありませんよね。
しかし、ストレスは日に日に、確実に溜まっていきます。
つまり、効果が小さくても、日常生活でこまめに実施できるものをたくさん用意しておいた方が役に立ちます。
しょぼくて手軽な気晴らしでいいんです。
真っ先に誰もが思い浮かびそうなのは、
カラオケ、ボーリング、居酒屋で飲む、映画、ジョギング、バッティングセンター、ゲーム
などでしょうか。
確かに、これらの気晴らしはとても有効だと思います。
しかし、これよりももっと、「ちょっとしたこと」でもいいんです。
例として、参考文献の中で紹介されていた、40代男性の気晴らしリストから抜粋します。
- 電車で座れた時に、心の中でガッツポーズする
- いらないメールをいっきに消去する
- 机の上を15分間だけ片付ける
- 「おはよう」と職場で元気に挨拶
- ネコの肉球をつんつんする
- 鳥の唐揚げでビールを飲む
- 雨の日にお気に入りの傘をさす
他には、こんなのも手軽にできてオススメです。
- 昼寝をする
- 顔を洗う
- 蛇口を捻れば水・お湯が出ることに感謝する
- スイッチを押せば電気がつくことに感謝する
- 今日も当たり前に昼食を食べられることに感謝する
- 好きな曲を聴く
- どうすればいいか歩きながら考えてみる
- こんなとき、為末大(尊敬する人)ならどうするか?を考えてみる
こんなんでいいんです。
ストレスをよく感じる場所で実行できるとGood
また、今あげた例を見ているといくつかポイントが見えてきます。
まずは、ストレスをよく感じる場所でできることをたくさんリストアップしておきたいということ。
「いらないメールを消去する」「机の上を片付ける」などの職場でできることや、「顔を洗う」「感謝する」「好きな曲を聴く」などのどこでも出来ることがそれに当たります。
「尊敬する人ならどうするか?を考える」のように、頭の中で完結することも場所を選ばないのでグッド。
しょぼい気晴らしほど場所を選ばないので、ここでもしょぼい方法の必要性がわかります。
具体的に書く
そして、具体的に書いておくこと。
「美味しいものを食べる」ではなく、「鳥の唐揚げでビールを飲む」
こうすることで、実際に気晴らしをする際に迷いがなくなる。
ストレスがかかっているときには、何かを選ぶというストレスもできるだけ失くしてあげた方がいいです。
ばかばかしいことでもやってみる
最後に、ばかばかしいと思うことでもやってみる。
「電車で座れたときに心の中でガッツポーズする」「いらないメールをいっきに消去する」などは、一見すごくばかばかしいことに見えます。
でも、人によってはそれでも効果がある。
実際にこの40代男性にとっては、これも立派な気晴らしになっているわけです。
それに、やってみて効果がなかればリストから消去すればいいだけです。
なので、まずはばかばかしいことでも、思い付いたものはリストアップして実践してみましょう。
どんな気晴らしがいいのかうまく思い付かない人はこちらの本がすごくオススメです。
科学的に効果が実証されている方法ばかりが紹介されています。
リストは持ち歩こう
この気晴らしは、ストレスを感じたときにできるだけ早く行うことが重要です。
そのためにもリストは常に見れる状態にしておかなければなりません。
方法としては、スマホなどのデジタルデバイスにメモしておくか、印刷したものを持ち歩くか、ですね。
スマホで携帯する場合は、EvernoteやGoogleスプレッドシートなど、PCと同期できるアプリを使うと便利です。
やってみて感じたメリットやポイント
リストアップすることのすごさを感じた
ストレスがかかっている時というのは落ち着いている時と同じように頭が働かないことがあります。
ストレスを発散させようと思っても、
「あれ?自分の好きなことって何だっけ?」
と、普段なら簡単に思い出せることも、追い詰められていると出来なかったりします。
しかし、あらかじめリストアップしておけば、そこからよさそうのものを選ぶだけ。
さすがにそのくらいは精神的に参ってる時にもできます。
さらに、点数がついていることで、「過去に効果があったものだ」ということが目で見てわかり、”何をやるにも億劫”という気持ちがやわらぎます。
リストアップすることはすごく効果的だと、身をもって体感しました。
元気なときに色々開拓しておいた方がいい
例えば、運動することはとても有効な気晴らしです。
でも、いつもランニングばかりしていてはちょっと飽きてきます。
たまには違うこともしたい。
「何がいいだろう?そうだボルダリングというのをやってみよう」
しかし、何か新しいことを始めるというのは心理的な障壁が高くなります。
施設を探したり、用意するものを調べたり、準備したり。
新しい場所に行くのも少し億劫に感じることもあります。
そして、ストレスを感じているときには、この心理的な障壁がもっともっと高くなります。
なので、ストレスを感じていない元気なときに、いろいろな楽しいことを開拓しておくことが重要だと感じました。
独りでやれることもある程度あげておいた方がいい
誰かと飲みに行ってたくさん話すというストレス解消法はとても有効だと思います。
しかし、強いストレスというのはいつやってくるかわかりません。
他人がいないとできない事はもちろん他人の都合に左右されます。
当日に飲みに誘っても、運が良ければ誰か捕まるでしょうが、その確証はないです。
だからそんなときでも大丈夫なように、一人でも有効なストレス解消法をある程度用意しておくことをお勧めします。
自分に最適なパターンが見えてきた
実行して採点していくと、だんだん何をするのが自分にとって一番いいのかわかってきました。
また1つ1つの解消法の効果だけでなく、1日の中でそれをどういうパターンで実施していくことが有効なのかもわかってきました。
例えばぼくの場合ですが、マンガや小説やDVDを見ながらゴロゴロするのは好きなんですが、1日中家にいるのは逆に鬱屈した気分になることがわかってきました。
それよりも、まず午前中のうちは何か運動系のことをして汗を流し、それから美味しいものを食べて、それからゴロゴロするのが最適なようです。
もちろんこう言ったパターンは人それぞれだと思いますので、リストを活用して自分に最適な行動パターンを作り上げていくことで、より効果的にストレス発散できるようになっていきます。
まとめ
1気晴らしをリストアップする
ポイント
- 質より量。目標は100個
- すぐできる・どこでも実施できて、効果は小さいものでOK
- 具体的に書いておく
- ばかばかしいことも採用してみる
- 元気なうちに色んなストレス解消法を開拓しておくとGood
2ストレスを感じたとき、リストから気晴らしを行ってみる
ポイント
- ストレスに自覚的になることを意識する
- ストレスの大きさ・種類に合った気晴らしを実施する
- 小さなストレスでも放っておかない
- 作った気晴らしリストは持ち歩くようにする
3やってみた気晴らしを簡単に採点
ポイント
- 実施した気晴らしを10点満点で評価してみる
- 効果を感じられないときは、違う気晴らしを行ったり、他の気晴らしを組み合わせたりする
- よかったものは、繰り返して習慣化する
- できれば、どんなストレスのときに、何をして、効果はどうだったかも記録する
このテクニックのメリットまとめ
- ストレスの認知を意識することで、その都度ストレスを発散し、クリーンな状態を維持できる
- リストができることで心が参っているときにも自分が好きなことが思い出せる
- リストの点数を見れば過去に効果があったことがわかるので「やってみよう」という気になれる
- 自分に最適化されたストレス解消パターンを確立できる
- 脳がストレスに強くなる
参考文献
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