ある日の街中。
同じ服を着た男に、出会ってしまった。
全く同じプリントTシャツに、履いているジーンズもやたらと似ている。
胸元に輝くあのロゴマーク。
間違いない、ぼくが着ているのと同じTシャツだ。
何ともいえない気まずさが、
どこからともなくこみ上げてくる。
その気まずさに耐えかねて、
一目散にその場を離れる。
時速7キロの速歩き。
なぜ、気まずいと思うのだろう。
同じTシャツを買うくらいだ。
気の合う仲になれそうなのに。
これが同族嫌悪というヤツか?
同じ極の磁石のように、
反発するのがぼくらの定めか。
まあ考えても仕方がない。
気を取り直して本屋に行こう。
本屋
ああ、だけどダメだった。
やっぱりぼくら似た者同士。
行き先だって、似てしまうのだ。
そしてやっぱり反射的に、
ぼくはその場を去るのであった。
どうしてそう頑なに、
ぼくは彼から逃げるのか。
ぼくは何から、
目を逸らしているというのか。
ぼくと彼はただ、
同じ感性を持ち合わせているだけなのに。
逃げる必要などなかったのだ。
ただ向き合えばよかったのだ。
だけど彼はもういない。
本屋にももういないだろう。
後悔してももう遅い。
だけど。
だけど、ぼくらまた会えるだろう。
ぼくらならきっと会えるだろう。
だって僕らは。
同じTシャツを着た者同士なんだから。
そして、もしまた会えたなら。
同じTシャツの君にまた会えたなら。
今度は逃げずに君に言うよ。
面と向かって君に告げるよ。
今日言えなかった、この言葉を。
「……あっち行けよ。」